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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)247号 判決 1972年9月27日

東京都中央区日本橋本町四丁目一番地

原告

熱海観光土地企業株式会社

右代表者代表取締役

伊藤正義

右訴訟代理人弁護士

宮本佐文

高山征治郎

東京都中央区日本橋堀留町二丁目五番地

被告

日本橋税務署長

高橋三郎

右指定代理人

森脇勝

高林進

小宮竜雄

丸森三郎

右当事者間の源泉所得税告知等取消請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

(原告)

「被告が原告に対し、昭和四三年一月八日付でした、原告の源泉徴収所得税本税の納税告知および不納付加算税の賦課決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

(被告)

主文同旨の判決を求める。

第二、双方の主張

(原告の請求原因)

一、被告は原告(以下「原告会社」ともいう。)に対し、原告会社から同社代表取締役伊藤正義に対し、昭和四一年六月中に七三〇万円の賞与が支払われたものと認定して、昭和四三年一月八日付で、右賞与の源泉徴収所得税の本税三五〇万七一九二円の納税告知および不納付加算税三五万〇七〇〇円の賦課決定をした(以下これらを「本件処分」ともいう。)。

原告は、右処分に対し、適法な異議申立手続を経て、昭和四三年四月二五日東京国税局長に審査請求をしたが、昭和四四年八月二〇日付をもって棄却され、同年九月二日右裁決書謄本の送達を受けた。

二、しかし、原告が訴外正義に右のような「賞与」を支給したことはないし、右処分の基礎となるような事実は何ら存在しないのであるから、本件処分は違法である。よってその取消しを求める。

(被告の答弁および主張)

一、請求原因一の事実は認め、同二は争う。

二、被告は、税務調査の結果、原告が昭和三八年七月取得した熱海市所在の山林および原野合計五、四七一坪(以下「本件土地」という。)を昭和四〇年九月六日訴外新日本紡績株式会社に売却し、同日その代金として約束手形数通を受領したが、そのうちの二通(額面合計八〇〇万円、満期いずれも昭和四一年六月三〇日、以下「本件約束手形」という。)については、正義が訴外有限会社三協商事の名義で住友銀行神田駅前支店に対して取立委任をし、右満期以後、正義によって、別表記載のように運用されている事実が判明したので、その経過からみて、昭和四一年六月三〇日以降、右手形金八〇〇万円は原告会社の資産を構成しているものではなく、正義が同人の個人資産に移転せしめたものと認め(ただし、そのうち七〇万円については、原告会社の訴外野口建設株式会社に対する未払金の支払にあてたものと認めた。)七三〇万円について、これが賞与として正義に支給されたものとしたのであって、本件処分には原告主張のような瑕疵はない。

(被告の右主張に対する原告の答弁および主張)

一、原告会社が被告主張の日に本件土地を売却して本件約束手形を受領したこと、右約束手形の満期以後、その手形金が正義によって訴外有限会社三協商事の名義を使って取り立てられ、別表記載のように運用され、原告会社の資産を構成してはいないことは認めるが、その余の被告の主張事実は争う。

二、右手形金は、つぎのとおり、原告会社の訴外伊藤薫に対する債務の弁済にあてられたものであって、正義は薫の債権者兼代理人としてこれを運用したものであるから、これを原告会社の正義に対する賞与とした被告の認定は誤りである。すなわち、

1 昭和三七年六月、薫と訴外雲野誉三とは、本件土地の取得、売却を目的として、薫が三分の一、雲野が三分の二の出資割合で共同事業を始め、昭和三七年八月二〇日本件土地を訴外東京観光企業株式会社から代金五、四七一万円で買い受け、その残代金の支払いのため同年一二月二八日、額面三、九七一万円、満期和年三八年二月末日の約束手形を振り出した。

2 正義は、昭和三八年二月二五日父の薫に対し、右手形金決済のための資金として五〇〇万円を貸し渡した。すなわち、正義は、同日富士銀行中野北口支店から、同人や家族名義の定期預金を担保に三〇〇万円を借り受け、さらに妻伊藤とし子名義の普通預金から六〇万円、訴外株式会社青葉商会(正義が経営)名義の普通預金から四〇万円を引き出し、手持資金等から一〇〇万円を都合し、合計五〇〇万円を捻出したのである。そして、薫は右五〇〇万円を前記手形金債務のうち同人の負担部分の一部として、そのころ雲野に送金した。

3 昭和三八年六月一八日、右共同事業の対外関係や経理関係を処理するため、薫が代表取締役となって原告会社を設立し、引き続き前記同様の出資割合による共同事業として、昭和四〇年九月六日本件土地の売却を行なった。

4 その間、昭和三九年一一月三〇日正義が原告会社の代表取締役に就任したのであるが、本件約束手形を受領した当日、原告会社はそれまで薫に対し合計二、八四八万七、九八四円の債務を負っていたので、本件約束手形をもって右債務の弁済にあてることとし、これを薫に交付した。

5 ところが、薫は、昭和四〇年九月頃から脳軟化症で入院していたので、正義が薫の代理人として右手形金を取り立て、運用し、そのうち五〇〇万円を薫に対する前記貸付金の弁済として受領し、残余の三〇〇万円は薫またはその妻に手交し、生活費、療養費にあてられた。

(原告の右主張に対する被告の答弁)

正義が昭和三八年二月二五日、富士銀行中野北口支店に同人や家族名義の定期預金を担保として差し入れたことおよび妻伊藤とし子名義の普通預金から六〇万円、訴外株式会社青葉商会名義の普通預金から四〇万円を引き出したこと、原告会社が薫を代表取締役として昭和三八年六月一八日設立されたこと、昭和三九年一一月三〇日正義が父薫に代わって原告会社の代表取締役に就任したことは認めるが、正義が薫に五〇〇万円を貸し渡し、同人がさらにこれを雲野に送金し、本件土地購入代金の支払いにあてたこと、本件約束手形は原告会社の薫に対する債務の弁済として同人に渡されたものであり、正義は薫の代理人として右手形金を取り立て、運用し、そのうち五〇〇万円を薫に対する貸付金の弁済として受領したものであるとの主張事実はすべて否認する。その余の事実は知らない。

第三証拠関係

(原告)

甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五ないし第一五号証、第一六、第一七号証の各一、二、第一八ないし第二〇号証、第二一ないし第二三号証の各一、二、第二四、第二五号証を提出し、証人雲野誉三、同伊藤とし子、同大宮知之の各証言、原告会社代表者尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

(被告)

乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第一一号証を提出し、証人大橋重幸の証言を援用し、甲第四号証の一、二、第五号証、第一〇号証、第一三号証、第二五号証の各成立は不知、その余の甲号各証の成立を認めた。

理由

一、請求原因一の事実(本件処分があったことおよび審査請求を経たこと)は当事者間に争いがないので、以下本件処分の適否について判断をする。

二、原告会社が、昭和四〇年九月六日本件土地を訴外新日本紡績株式会社に売却し、同日その代金の一部として本件約束手形を受領したこと、ところが、右約束手形の満期である昭和四一年六月三〇日以後、父薫の代理人として行なったものであるか否かは別として、正義によって、訴外有限会社三協商事の名義を利用して右手形が取り立てられたうえ、別表記載のように運用されており、結局、右手形金八〇〇万円は右同日以降原告会社の資産を構成していないことは当事者間に争いがない。そして、右争いのない手形金運用の経過をみると、そのうち五〇〇万円については、最終的に正義個人の銀行に対する借入金と相殺されているのであるから、これが正義個人の金銭として運用されたことは明らかであり(この限りにおいては原告もこれを争ってはいない。)、さらに、訴外有限会社三協商事および同有限会社三友はいずれも正義が代表者となっている会社であること(原告会社代表者尋問の結果によってこれを認める。)、「五十嵐登志子」というのは正義の妻伊藤とし子の旧姓であること(この事実は当事者間に争いがない。)ともあわせ考えれば、本件約束手形の右のような取り立て、運用の経過から、右手形の満期以後、その手形金八〇〇万円は、正義個人の金銭として運用されており、同人の所得に帰属していると推認することは、合理性があるものとして肯認することができる。したがって、本件における争点は、「本件約束手形は原告会社の薫に対する債務の弁済として原告会社から同人に交付されたものであり、正義は薫に対し五〇〇万円貸し渡してあったので、同人からその弁済を受けたものである。)との原告の主張が全体として採用するにあたいするか否かの点に帰着するといわなければならない。そこで、以下原告の右主張について検討する。

三、(本件約束手形は、原告会社の薫に対する債務の弁済として、昭和四〇年九月六日原告会社から同人に交付されたものであるとの主張について)この点の積極的証拠としては、甲第四号証の一、二(ただし、その成立の真否およびこれが作成された経緯については後記認定参照)および原告会社代表者尋問の結果中、右主張にそう部分がある。

しかし、成立に争いのない甲第六ないし第九号証、乙第七号証、証人大宮知之、同大橋重幸、同雲野誉三の各証言、原告会社代表者尋問の結果を総合すると、つぎのように認められ、この認定を動かすに足る証拠はない。すなわち、

原告会社は、薫を代表取締役として昭和三八年六月一八日設立された(この事実は当事者間に争いがない。)が、納税地の所轄税務署長(被告)に対する設立の屈出もなく、以来無申告であったこと、昭和三九年一一月三〇日、正義が父である薫に代わって原告会社の代表取締役に就任した(この事実も当事者間に争いがない。)が、正義は右就任前に原告会社の事業に関与したことはなく、就任後薫から本件土地の登記済証、契約書、メモ、領収書類を引き継いだほかは、帳簿書類の引き継ぎはなかったこと、正義は、昭和四二年九月頃、原告会社の本件土地売却による所得の脱漏の疑いで担当係官から調査を受けるや、公認会計士大宮知之に原告会社の帳簿書類を至急作成するように依頼したこと、そこで大宮は、正義の要望に従って、同人が持参した伝票、領収書、預金通帳、メモなどによって、原告会社の財務諸表(乙第七号証)を作成したこと、ところが、大宮は、その後、本件土地の売買行為は「熱海観光土地企業の行為ではない、これは雲野誉三と熱海観光企業との匿名組合」(速記録五丁裏)であり、乙第七号証は「深くせんさくしないで、伊藤さんの要望どおり熱海観光自体の売買行為であるというように早合点」(同三丁表なお同五二丁裏)してまとめたもので、「会計の主体が違っている。」(同七丁裏など)「熱海観光土地企業は匿名組合の組合員として成果さえ配分を受ければいい……土地の売買を一から十まで記帳する必要はない」(同七丁表)との考えをもつにいたり、そこで、乙第七号証作成の基礎になった資料のうち「疑わしいものはのけて」(同八丁裏)、約一ヵ月かかって甲第四号証の一、二を作成したこと、そして、甲第四号証の一のうち、昭和三八年三月一日の振替伝票および同号証の二のうち、借入勘定の右同日の処理は「共同事業には一文も金がない……これを出したのは匿名組合のメンバーである雲野誉三とそれから熱海観光企業とが出したに違いないと、それ以外に考えられないと、こういうことで」(同二四丁表、裏)仕訳けをしたものであり、また、乙第七号証のうち、昭和四一年五月現在の貸借対照表において、受取手形二、四〇〇万円を原告会社の資産として計上したのは「伊藤さんの話を聞いて手形がまだ持っておるという誤解で書いた」(同三八丁裏、三九丁表)ものであり、これに対し、甲第四号証の二の受入手形、借入、支払利息各勘定の昭和四〇年九月六日の処理は「手形自体を熱海観光に渡したんだと熱海観光は当然伊藤薫さんから借りたからこれは伊藤薫に手形を渡しただろう」(同三九丁裏)、「手形をもらつたらすぐその日に処分しただろうという前提条件のもとに」(同四一丁表)、結局この共同事業が対外的に払った金額は、すべて……二人からの借り入れである。それから受取ったものは借り入れの返済であると、こういう処理をして、最短距離で片づけた」(同二七丁裏)ものであり、」利息が現実に支払われたものであるかどうかも確認せず、計算上のものを計上したにすぎないこと、甲第四号証の一、二は、名義人として「雲野誉三・原告会社・共同事業」と表示されているが訴外雲野は甲第四号証の一、二が作成されたことを知らなかったこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実に照らすと、甲第四号証の一、二は、その名義人によって真正に成立したものといえるかどうか、はなはだ疑わしいものというべく、かりにその成立が肯定されるとしても、その記載内容は、公認会計士が後日不充分な資料を用い、かつ、自己の想像を混じえた主観的見解に基づいて作成したもので、とうてい信用することができない。なお、成立に争いのない甲第二一号証の一、二、証人大橋重幸の証言によれば、被告の原告会社に対する昭和四〇年六月一日から昭和四一年五月三一日までの事業年度分の法人税決定処分およびこれに対する東京国税局長の審査裁決においては、必要経費の認定の一資料として右甲第四号証の一、二の計算の一部が採用されていることが認められるが、この一事をもって、同号証の信用性の裏付けとすることのできないことは、いまさら多言を要しない。

また、原告会社代表者尋問の結果中、右主張にそう部分については、その供述自体も不安定であるうえ、右認定の各事実に照らしてとうてい信用することができない。

さらに、つぎに検討する五〇〇万円貸し渡しの主張にも関連することであるが、原告主張のような本件約束手形の処分についての説明は、いつでも直ちに開示することができるはずであるのに、証人大橋幸行の証言によれば、担当係官が銀行調査などの結果判明したとして、別表記載のような手形金の経過について説明を求めても、正義は、これに対して賞与と認定されるべきでないとするに足りる格別の説明をしなかったことが認められ(ちなみに、原告会社代表者尋問の結果によれば、正義は、もと税務署に勤務していたことがあり、原告会社のほか、訴外株式会社青葉商会、同有限会社三協商事、同有限会社三友、同有限会社荒谷など数社の代表取締役をしていることが認められる。)、原告会社代表者尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できない。

そのほか、本件の全証拠および弁論の全趣旨をあわせ考えても、本件約束手形が原告の薫に対する債務の弁済として、薫またはその代理人である正義に交付されたという事実を認めるにはいたらないから、この点に関する原告の主張は、採用することができない(附言するならば、原告会社自体としては事業資金に乏しく、資金をもっぱら薫に仰いでいたことは、窺知するに難くないとしても、その資金の回収が、いついかなる方法でされるべきかを推認させるに足る事情、すなわち、本件共同事業の構造、薫の資金の回収方法に関する約定の内容、原告会社の設立に伴う同会社と薫との間の右資金に関する債権債務関係の内容などの諸事情については、これを立証する資料がなにもなく、したがって、原告が本件手形を取得したとき、直ちにそれが薫に対する債務の弁済として同人に交付されたものであるとの認定は、とうてい困難であるといわなければならない。)。

四、(昭和三八年二月二五日、訴外正義が同薫に五〇〇万円を貸し渡したとの主張について)

すでに三で検討したように、「本件約束手形は原告会社の薫に対する債務の弁済として同人に交付されたものである。」との主張を採用することができないのであるから、右の点に関する原告の主張については、これを判断するまでもなく、前提を欠いた事実の主張として失当であるというべきであるが、本件において原告が強く主張する点でもあるので、以下若干の検討を加えることとする。

正義が、昭和三八年二月二五日富士銀行中野北口支店の妻とし子名義の普通預金から六〇万円、訴外株式会社青葉商会名義の普通預金から四〇万円を引き出したことは当事者間に争いがない。

ところで、一方成立に争いのない甲第二号証の一、二、第一一号証、乙第五、第六号証、原告会社代表者尋問の結果によれば、右とし子および青葉商会名義の各普通預金口座に、右同日それぞれ右引き出した金額と同額が小切手により入金されていること、すなわち、当時、薫が代表取締役をしていた訴外ロイド株式会社振り出しにかかる額面一〇〇万円の小切手(記号A004316)が、それぞれ六〇万円と四〇万円に分割されて、右の各普通預金口座に入金されたことが認められる。

してみると、右のように預金口座から現金が引き出されたのは、単に訴外ロイド株式会社振り出しの小切手を現金化するためにとられた措置にすぎないものとみるが相当であり右預金の引き出しは、薫に貸与するためにしたものであるとの原告の主張を直ちに措信することはできないものといわなければならない。もっとも、原告会社代表者尋問の結果中には、右預金口座への入金は、薫を通じてロイド株式会社に融資した金員が返済され入金になったものであるとの供述部分があるが、証人伊藤とし子の証言に照らして措信できないし、そのほか、右のように同じ日に同じ金額が出し入れされていることについて、右のような疑いを解消し、原告主張どおりに認めるのを相当とするような格別の事情はみあたらない。

また、原告会社代表者尋問の結果や原告の主張によると、右五〇〇万円は、本件土地購入代金支払いのために振り出された昭和三八年二月末日満期の約束手形の決済(薫の負担部分)のために必要なものとして融資を懇請されたというのである。そして、成立に争いのない甲第三号証によると、昭和三八年二月二五日駿河銀行熱海駅前支店の雲野誉三の預金口座に薫から五〇〇万円が振り込まれたことを認めることができる。

しかしながら、他方、成立に争いのない乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証、証人雲野誉三の証言を総合すると、訴外雲野は、昭和三八年二月、同人所有の熱海市向山および南田所在の土地を訴外株式会社後楽園スタジアムに対し、代金二、九八九万二、四二〇円で売却し、同年二月二〇日小切手により五〇〇万円、同年三月一日同じく小切手(記号EV00544)により二、四八九万二、四二〇円を受領し、同日右小切手(額面二、四八九万二、四二〇円、記号EV00544)および現金一万七、五八〇円を本件土地の購入先である訴外東京観光企業株式会社の当座預金口座(日本観業銀行池袋支店)に本件土地代金として振り込んだことが認められる。

すると、薫が昭和三八年二月二五日正義に借金をしてまで(原告の主張によれば、正義はいろいろ工面をして五〇〇万円を都合したというのである。)、是非とも本件土地代金(その負担分)として雲野に送金をしなければなかったとすれば、他に特段の事情があってしかるべきであるか、この点について首肯するに足る情況を認めうべき証拠はない。したがって、原告会社代表者尋問の結果中、前記甲第三号証と結びつけて供述している部分は、にわかに措信することができないし、そのほか、証人雲野誉三、同伊藤とし子の各証言および原告会社代表者尋問の結果中原告の右主張にそう部分は右認定の各事実に照らして措信することができない。なお、甲第一〇号証は、薫自筆のメモであるか否か確証はなく、その成立を認めるにいたらないが、その記載内容についても、本件土地購入代金の支払方法が記載されているとすれば、前記乙号各証と明白に相違しており、そうでないとすれば他にどのように解読すべきであるのか、何ら首肯するに足る説明もないので、とうてい採用の限りでない。また、証人伊藤とし子の証言によれば、甲第一三号証は同人の手帳であることが認められるが、その記載内容の真実性については、特段の情況的保証も立証されておらず、そのまま採用することはできない。他に右主張を認めるに足る証拠はない。

以上の次第であるから、右の点についての原告の主張もまた採用することができないといわなければならない。

五、そうすると、前示のように、被告が原告会社の受領した本件約束手形について、その満期以後の運用の経過から、これが原告会社から訴外正義の所得に帰属したものと認定したことは、相当であるといわなければならない。そして、正義が原告会社の代表取締役であり、右八〇〇万円について、あらかじめ支給額、支給基準、支給期の定めがあったとも認められない以上、その金額の範囲内で七三〇万円を賞与にあたると認めた被告の本件処分は適法である。

六、よって、本件処分が違法であるとしてその取消しを求める原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 吉川正昭 裁判官 石川善則)

別表(アラビア数字は年・月・日を示す。)

<省略>

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